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ミーン、ミーン、ミーン…。
耳につく五月蝿い蝉の声が響く。
真っ青な空にはもくもくと真っ白な入道雲と、ギラギラと太陽がコンクリートを焼き付ける、猛暑日と言われるくらい暑い夏の土曜日の午後。
カララン…♪
私は今日もお気に入りの喫茶店の扉を開けた。
柔らかいライトの光と、肌触りの良い少し冷たい空気が肌を撫でる。
私は最低でも月に1回。“彼”と一緒にココでおしゃべりをする。
おしゃべりの妨げにならない程度の音量の、心地良いピアノの音楽がスピーカーから店内に流れていた。
余り人目につかない、2人がお気に入りの角にある席が待ち合わせ場所。
「光哉」
他の人の邪魔にならないように、私…榎本翠(えのもとみどり)は、いつもの席に座って読書をしている幼馴染に少し小声で声を掛ける。
読書をしているその姿が結構絵になっていて、待ち合わせの度に見ているはずなのに、胸が高鳴る。
「!ああ、来たか」
彼は大木光哉(おおきこうや)。私の幼馴染で…片思いの相手。
「お待たせ。今日は何読んでたの?」
財布と携帯、小さな化粧ポーチとハンカチが入った小さめの肩かけのポーチをソファの自分の横に置きながら、光哉の目の前の席に座りつつ問い掛ける。
「ドストエフスキーの罪と罰…まぁ、そう言う話は注文してからにしよう」
「そうだね」
私達の注文は、いつも同じ。
私はショートケーキにモカのコーヒーのセット。
彼はガトーショコラにキリマンジャロのコーヒーのセットだ。
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