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私の目が見えなくなって直ぐ
彼は私をこの部屋に連れて来た。
お風呂もトイレも完備された広い部屋。
ご飯は毎日彼が作ってくれた。
彼はコンピューター関係の会社を経営しているらしく、時間の融通が利くらしい。
目が見えなくても、彼のお陰で私は何不自由ない生活を送っていた。
ただ一つ気になるのは…
彼は私をこの部屋から出すことを極端に嫌った。
“外は危ないから”と…
絶対に出してはくれない。
それが時々、息苦しくなる。
外の情報は、全て彼が与えてくれたもの。
世間では今、どんなものが流行っているだとか
どんな音楽が人気だとか
政治のこともたまに話すけど、それはよく分からない。
一緒にご飯を食べて、一緒のベットに寝て
この部屋が私の世界。
そしてその中心に彼がいる。
彼がいなければ、私は生きられない。
ただ、時々思うの…
もしこの目が見えていたら…
私の人生はどうなっていたのかな?
今と同じように、匡の隣にいた?
最近、そんなことを考えることが多くなった気がする。
匡「沙夜…何考えてる?」
ベットの上で抱き締められながら、頭一個分上の所で彼の声がする。
沙「別に、なにも…」
彼の胸に顔を埋め、私は眠りについた。
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