第一章 アーティスト

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 それから、過去五年。風というものを具現化しようと稽古をつけてもらっていたが、彼にはセンスがないようだ。微風も突風も起きなかった。  アーティストは、結界を張ったり、儀式的なことができない。また、種術同士の打ち消しができない。できたとしても相手がエチュードやメソッドとなると対抗できなかった。せいぜい、同実力者同士で争うのが関の山の世界であった。  アーティストには上下関係はない。一般種師の実力は得て不得手はあるものの威力として大差はないと言われている。  種術の打ち消し作用については、同系の種術が基本となる。  威力増幅は、感情の浮き沈みにより発生する種力が原因だと言われていた。  それにより、種師の勝ち負けを決める。しかし、それは曖昧な基準だと研究者が騒いでいるのも事実で、その真価を問う研究は日夜突いているという。  だから、彼は剣術を選んだ。  剣の稽古相手であったヒルは戦争中に病で還らぬ人となった。今では相手が居ない虚空を切り刻むだけで時間が過ぎていく。  カプリという青年がヒルの代わりに配属された。しかし、カプリは裏闘技場に入り浸る。カジノの地下に設えた、囚人と闘うシステムの場所だ。アクスは、行かない。
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