153人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生、私が死んだらどうしますか?」
数学の教科書の向こうに問いかける。
寝癖のついた髪のその人は私の問いを鼻で笑った。
「ねえ、先生。私が死んだらどうしますか?」
「さあね。」
教科書の向こうから興味のなさそうな声が返ってきた。
私は溜息を一つついてペンをくるくると回した。
ヘリコプターのプロペラみたいに回るペンを眺め、先生は言った。
「俺が死んだらどうする?」
「え?」
「だってお前より俺のほうが先に死ぬだろ?」
「そんなの分からないじゃないですか。」
「一般的に考えたらそうだろう。」
先生は足を組みなおして頬肘をついた。
私は公式を書きなぐっただけのノートを見下ろした。
ノートの白さが目に染みる。
「教え子代表で弔辞を読んであげますよ。とびっきり感動的なやつ。」
「じゃあまず卒業しないとな。ほら、続きやれ。」
先生は子供みたいなくしゃっとした笑顔で言った。
ペンダコのできた中指が時計の針みたいに揺れる。
最初のコメントを投稿しよう!