第一章

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だが、主に「死ぬな」と言われてしまえば死ぬことは出来ないし、自分が死ぬことで彼女が泣くというのならばそれは避けなければと思ったため、銀は、己の主に約束できる範囲の誓いを立てた。 「無意識に体が動くこともある。絶対とは言えないが、出来る限り生きて主の傍で、主が護ろうとしているものを護ろう。主の心と共に」 その言葉に蒼華は少し驚き、小さく目を見開いたが、一瞬のことで銀は気づかなかった。すぐに何時もの表情に戻ってしまったが、銀の誓いを了承する意味を込めた小さな微笑が彼女の顔に刻まれた。その微笑に、多少文句を言われるだろうと身構えていた銀は、ほっとしたように体の力を抜いた。小さな微笑を湛えたまま、微かに目を細め、その様子を見届けた蒼華は、銀と話すために置いた筆を静かに手に取り、再び政務を始めた。そして、銀は疲れたように畳の上に身体を横たえた。こうして、“花の宴”で賑わい、穏やかな夜を迎えた狼鬼一族の郷は一日を終えた。
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