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「よろこんで!!では早速行きましょう」
それでも驚くよりも先に、歓喜の方が先に来た。
客の手を掴んで表に出ろうとする椿。
「え…?あの…もうですかッ!!?」
当然客は驚いた。
幕末ツアーというのが眉唾でなければ、注意事項とか色々あるはずだ。
悪意を持って歴史を変えようとする人間では無いかなど、審査も厳しいはず。
そんな風に思っていたからだ。
しかし所詮は素人の小説。
そんなものは一切無い。
「最近、幕末ツアーのお客様が来なくて…もう私、早く行きたくてウズウズしてたんですッ!!!」
椿は客の戸惑いにも気づかずに、グイグイと手を引いている。
「は…はぁ?
あの、落ち着いてください!」
「………ご免なさい…落ち着きます」
客の声で我に返った椿は、途端に恥ずかしくなってしまった。
気を取り直して…
「取りあえず、コチラの申込書にお名前だけ書いていただけますか?後はおいおい…」
「おいおい?」
「ほんと、いつもこんな感じですから」
「は…はぁ」
客は、営業スマイル全開の椿に若干の不安を感じつつペンを走らせる。
ペン先は、結城乃愛と書いて止まった。
「乃愛さん…か。乃愛ちゃんって呼んでもいい?」
「はい。それにしても申し込みの用紙に名前だけだって、本当にこれで良いんですか?」
「良いんだよ。私を信じて!」
幕末へ行く!
そのつもりでお金を貯めてここまで来たのだ。
今更心配してもしょうがない。
「はい!」
乃愛は己を励ますように笑みを浮かべた。
「それじゃあ、行きましょう!!」
椿は乃愛の笑顔を見てから、例の古ぼけたバスに案内した。
古ぼけたバスに唖然とする乃愛を他所に、椿は次々と質問を繰り返した。
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