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「…もう良いです、疲れたので部屋に戻ります」
少しふて腐れ気味に稔麿の部屋を出れば、
「迷わないようにね」
なんて、笑いながら言う声が聞こえてきた。
そんな言葉に私は
「わかってます!」
とだけ言って、部屋に戻る。
…と言っても、途中で楠さんに会って部屋まで案内してもらったんだけど。
襖を開ければ、殺風景な部屋が広がる。
この部屋に見慣れてきてしまったことに、チクリと胸が痛んだ。
…けど、この部屋ももう少しで見納めだと考えると、少しだけ寂しくもある。
新撰組に戻るのは素直に嬉しいし、私がこの一週間ずっと望んでいたこと。
そのことに不満があるわけではない。
ただ…やっぱり優とは離れたくない、なんて身勝手な思いがあるのも事実で。
幼い頃はずっと一緒にいた。
お兄ちゃんと、優と、私で。
あの頃はすごく楽しくて幸せで、ずっとこんな日々が続くものだと思っていた。
…まだ私は、あの頃の日々に囚われている。
もう戻れない
そんなこと、分かってるのに。
まだ私は淡い期待を抱いているんだ。
もしかしたら、前みたいにまた。
三人で笑いあえる日か来るんじゃないかと、淡い期待を。
もう、お兄ちゃんには会うことすら叶わないのにね。
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