0人が本棚に入れています
本棚に追加
「スティア」
「なによ」
拗ねた口調の片割れに苦笑する。
「すまなかった」
「謝られる理由なんてないわよ」
地面にしゃがみ込んで膝を抱えている片割れは、俺の大切な姫だ。
「勝手に約束したことだ。……せめて一言だけでも言うべきだった」
謝ってもこちらを向かない。ならば、実力行使だろう。
「話すときはこちらを向けと、お前が俺に教えたんだろう?」
細い体を抱き上げて、俺の方に顔を向ける。涙に濡れた頬を撫でれば、弱弱しい拳で胸を殴られた。
「あの人が死んだわけがないわ……!」
「うん」
「帰ってこなくても、どこかで生きているのよっ!きっと、きっとあの人は……!」
「うん。生きてて、きっと、笑ってる」
そっと抱き寄せて背中を撫でる。細い背はしゃくりあげるのを必死に耐えているのが分かる。
「会いたいな、あの人に」
俺達の目標だったあの人に。俺達を、会わせてくれた彼女に。
そう、それは、俺達が入学して初めての夏だった。
異常なほどに暑くなり、熱中症になりそうた昼だった。
最初のコメントを投稿しよう!