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荒れた道を行く足取りは、あまりにも覚束なかった。
身を隠すように、ほころんだ外套を頭から被る男は、短く呼吸を繰り返し、ひたすらに進むしかなかった。
──もうすぐ。もうすぐだ。
それは自分ではなく、痩せ細った両腕の中にある清潔な布で包まれたものに言い聞かせていた。
目的地までの距離はそう遠くない。
霞む視界を、無理矢理に正そうとするものの、それは困難を極めた。
「御仁、いかがされましたか?」
不意に声がする。
男の背中に僅かな戦慄が駆けた。
しかし、それは直ぐに失せた。
「……ああ」
声の主を認めた男は、思わず安堵し、自然と顔が綻ぶ事を止められなかった。
これまで張りつめていた緊張が一気に解れ、膝から崩れ落ちた。
声の主は、跪(ひざまず)きながら男の肩に手を添える。
「しっかり。近くに私の住処があります。そこで休まれて下さい」
「……いいえ、それは叶いません。……代わりにこれを」
男は、大事そうに抱えていた包みを差し出した。
「拝見しても?」
声の主がそう言うと、男は力なく静かに頷いた。
包みを受け取り、それを開く。
その手が、ぴたりと止まった。
「……それは、私の『罪』にございます」
男は、虚空に目を向けたまま弱々しく呟いた。
「どうか……どうかこの子を助けてあげて下さい」
そう言って、男は枯葉のようにゆっくりと地面に伏した。
「御仁、しっかり!」
包みを受け取った主が声を掛けるも、男の呼吸は既に止まっていた。
季節の境目、初秋の頃。
ここから全てが始まった。
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