13人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「だあぁっ、わっかんねえ!」
同室の遠藤長太郎が突然叫んだので、せっかく調節した望遠鏡の角度が大きくずれた。
一三四善司は騒がしいルームメートに気づかれないよう、こっそりとため息を吐きながら、 回転椅子をクルリと回して振り向いた。
「またなの?」
「しょうがねえだろ、俺英語だけは苦手なんだよ。期末で赤点取ったら夏休みがなくなる!」
英語だけは、ね。
善司は脳内で長太郎の言葉を反芻した。
学年でも一、二を争う秀才、座学も実技も他の生徒より抜きん出た長太郎の、唯一の弱点である教科。
英語を教えている時だけは、この優等生に対して密かな優越感を持つ事ができた。
しかし、こうも度々趣味の時間を邪魔されては、優越感に浸るのも面倒くさくなってくる。
問題集に並ぶ長文の虫食い部分に動詞、形容詞などとヒントを書きながら、善司はもう何度目か分からない台詞を口にした。
「これで最後」
「仲間を見捨てるとは、ヒーローにあるまじき行為だ」
「生憎僕はヒーローじゃないからね」
「仲間になろう」
「この前も断ったはずだけど……」
最初のコメントを投稿しよう!