一三四善司

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「だあぁっ、わっかんねえ!」 同室の遠藤長太郎が突然叫んだので、せっかく調節した望遠鏡の角度が大きくずれた。 一三四善司は騒がしいルームメートに気づかれないよう、こっそりとため息を吐きながら、 回転椅子をクルリと回して振り向いた。 「またなの?」 「しょうがねえだろ、俺英語だけは苦手なんだよ。期末で赤点取ったら夏休みがなくなる!」 英語だけは、ね。 善司は脳内で長太郎の言葉を反芻した。 学年でも一、二を争う秀才、座学も実技も他の生徒より抜きん出た長太郎の、唯一の弱点である教科。 英語を教えている時だけは、この優等生に対して密かな優越感を持つ事ができた。 しかし、こうも度々趣味の時間を邪魔されては、優越感に浸るのも面倒くさくなってくる。 問題集に並ぶ長文の虫食い部分に動詞、形容詞などとヒントを書きながら、善司はもう何度目か分からない台詞を口にした。 「これで最後」 「仲間を見捨てるとは、ヒーローにあるまじき行為だ」 「生憎僕はヒーローじゃないからね」 「仲間になろう」 「この前も断ったはずだけど……」
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