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梅雨入りしたばかりの空には朝から灰色の雲が垂れ込め、はらはらと涙を零すように水滴を落とし続けている。
時たま吹く風も湿気を帯びて、長袖でちょうどいいくらいの肌寒さを感じさせる程度に冷えている。
俺は、校舎から出た瞬間にげんなりと顔をしかめた。
「げ……マジか…傘なんて持ってねぇよ…」
朝から雨の予報は出ていたのだが、俺は自分がバス通なのを理由に傘を家に置いてきていた。
更にはそのバス通に必要な定期さえも机の上に置いたままであり、朝泣く泣く現金でバス代を払って登校したところ、財布の中の残金は銅一枚とアルミ四枚だけになってしまった。
たったそれだけの金でバスに乗れるほど俺は肝が据わっていないし、誰かと相合傘で帰ろうにも友人たちのほとんどはチャリ通なので傘自体を持っていない。
そして、共働きの両親を迎えに呼びつけられるはずもない。
つまり、これからの俺に残された手段は『雨に濡れて徒歩で帰宅』これしかないわけで。
「あぁ……だりぃなぁ……」
ぼやきながら外に踏み出すと、みるみるYシャツの肩や背中に水が染み込み、素肌にぴたりと張りついてきた。
最初は鞄を頭の上にかざして雨よけにしようとも考えたが、濡れたらもうどうでもよくなってしまい、俺は結局雨を浴びながら帰途につくことにする。
-だってさ、一回濡れちゃったらあとどんだけ濡れたって一緒だろ?
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