優しい雨

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『俺……自分の名前嫌だよ』 女の子に勘違いされて外から帰ってきたある日、俺は母さんにぽつりと言った。 『母さん達は…どうして俺男なのに、こんな女みたいな名前付けたの…?』 親からすればその言葉は、質問は、少しばかり胸に痛かっただろう。今になってそう思う。 すると、俺を軽く抱き締めて頭を撫でながら母さんは、 『梅雨の雨は、私たち生き物全てに恵みを与えてくれる優しい雨だと思うの』 『土を潤して、植物を育てて、私たち人間や動物を生かしてくれる』 『…あなたも、誰かにとってのそんな存在になれたらいいなって』 『お母さんにとってのお父さんみたいに、ね?』 そんな風に笑って言った。 いい年こいて紛れもなくリア充である。 成長期が来て女に間違えられることが減ったせいもあるだろうが、今の俺は自分の名前が嫌いではない。 それだからか、昔はただ鬱陶しいだけだったこの梅雨という季節にも、少し親近感を覚えていたりして。
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