ブレインイーター

2/14
前へ
/84ページ
次へ
 空はじめじめとした空気と、雨雲により覆われていた。  月明かりを失った夜は孤独なほど寂しい。  街灯の明かりが何故か全て消えていた。  静まり返った人気のない町並みは、不気味なほど静謐である。  夜道の一人歩きが危険だと言う事は、その女性も十二分に知っていた。  スーツ姿の女性は、手鞄に防犯スプレーと防犯ブザーを入れている事を失念している。  理由は度重なるストレスの為だ。  毎晩毎晩、仕事帰りを付けられている気配があった。  警察に届け出は出したが、事件が起こってからでは無いと本格的に動き出さないのは、警察機構の悪い風習と言えよう。  今日はやけに耳に足音が響いて来る。  等間隔でつかず離れずの足音は相変わらずだ。  女性は意を決して背後を振り返った。  一本道、明滅する自販機の横に人影があった。  ひょろ長い身体つきに、黒いTシャツにジーンズとみすぼらしい姿だ。  季節は秋に移ったばかりである。  その姿では、この肌寒い夜では冷える筈だ。 「お前……だ。お前に違いない……」  男の口から、低い低い声が響く。  女性は自販機から漏れる光りに照らされた、男の見え隠れする顔に張り付いた狂気の表情を見た。
/84ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加