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自分に当たる光を不思議そうに眺めてから、老婆顔の猿はおにぎりを食べるかのように、太田の肩に口を付けた。
骨を砕く嫌な音を立てながら肩をもぎ取る。
肩が無くなった為に、太田の腕がビチャリと床に落ちた。
良く見れば足元には真っ赤な水溜まりが広がりつつある。
それを見てようやく正常な判断が可能になったのか、茜が悲鳴が上げる。
桜子は蒼白な表情で口をカタカタと震わせながら、その場で腰砕けに尻をつく。
絶叫を上げて逃げ出したのは金子だった。
懐中電灯を落として走り出す。
それを皮切りに全員が我先にと逃げ出した。
「まっ、待って菜穂ちゃん! 腰が抜けて走れない! 待って! 待って! 待ってー―!!!」
悲痛な声が聞こえるが、恐怖が全てを塗り潰した。
菜穂子は脇目もふらさずに全力で走り出している。
全員が百メートル走さながらに駆け出していた。
背後から桜子の懇願の叫びが響くが、それは恐怖を逆なでするだけの音色に近かった。
廊下を曲がり、桜子の声が聞こえなくなった所で葵が唐突に立ち止まる。
「お姉ちゃん?!」
茜は足を止めた葵を、愕然と見つめた。
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