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葵は困った顔をしてから茜に向き直る。
「桜子を見捨てられないや。茜は警備室に行って、警備員を連れて来て」
葵の有り得ない提案に茜は沈黙した。
言っている意味が理解出来ないのかその場で凍りつく。
「なっ……何言ってるのお姉ちゃん? あれは幽霊……いや、妖怪だよ! 妖怪! 逃げなきゃ食べられるよ!」
「それでも……見捨てちゃ駄目さ。そんな卑怯な大人に私はならない」
「……?」
葵は茜の肩に手をかけると、額に額をくっつけた。
お互いが恐怖で震えているのが分かる。
「お願い茜。警備員を連れて来て」
その呟きに、茜はゆっくりと頷く事しか出来なかった。
それを感じると、茜は精一杯の笑顔を見せて元来た道に戻る。
「お姉ちゃん!!」
そのまま通路の闇に消える姿が、茜が葵を見た最後の姿であった。
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