演技者とゲーマー

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 想一は肩を竦めたが 「遠藤って、情報処理、得意なんだろ?その情報収集能力で、相手チームが誰だか調べられるんじゃない?」 と冗談めいて、真帆に耳打ちをした。  もちろん、その為には教師のパソコンにハッキングを掛けでもしない限り、分からない。  戦いの前の情報戦は、実戦では当然だが、テストの為にハッキングまでしたら、真帆は退学になり兼ねない。  が、親からの教育を受けていない所為か、真帆は善悪の判断が著しく欠如している所がある。 「ん…調べられるかも。でも、面倒くさい」  眠そうな真帆に、想一は 「本気にするなよ。そんな校則違反、ジョークだよ」 と肩を竦める。  が、人付き合いが極端に少ない真帆に、冗談が通じるわけはないのだ。 「まぁ、あんまり強くない相手と当たることを祈ろうぜ」  想一はそう言って、真帆から離れて行った。  その時点で、真帆は既に戦闘訓練テストのことなど脳裏に追いやっていたのだが、彼女が 「面倒くさい」 と言い切ったその手段を実行することになるまで、そう時間は掛からなかった。  翌日。  真帆がいつものように寮に戻ると、ルームメイトの鳥原 亜紀が珍しく、真帆に声を掛けて来た。  亜紀は物静かな少女で、黒縁眼鏡を掛け、クラスでも余り目立たない存在である。  後ろから近づかれると、余りの気配の無さに驚く生徒も多数という噂だ。  いつも互いに無言で静かな部屋なのだが、その日は違った。 「お願いがあるの」  単刀直入に亜紀に言われ、真帆はきょとんとしてそちらを見た。  が、亜紀は 「先にこの話は、誰にも言わないって約束してもらえる?」 と言う。 「ん…いいよ」  真帆がこくんと頷く。  約束などしなくとも、真帆には何でも打ち明け合うような友人がいないからだ。
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