演技者とゲーマー

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 真帆が頷いたのを見て、亜紀は言った。 「今度の戦闘訓練テストの相手、誰だか調べて欲しいの。出来る?」 「…面倒くさい」  真帆の答えを肯定と受け取り、亜紀は棒付きキャンディを束で出して見せた。  イチゴ、パイン、ミルク、グレープ、ソーダ。  カラフルな棒付きキャンディの束に、真帆の目がまるで子どものように輝く。 「これで、どう?」  亜紀に言われ、真帆はすんなりと頷いていた。 「ん、やる」  そのまま、真帆はくるりと亜紀に背を向け、パソコンを開いた。  それ以降、二人は会話らしい会話をしていない。  仲が悪いわけではないのだが、これがいつもの二人のスタイルなのだ。  お互いに何も話さずにいられる相手というのは、楽である。  とは言え、いくら善悪の判断能力や、道徳、倫理が欠如している真帆でも、校則違反を堂々とやる気はない。 「飲食禁止」 を破るくらいなら大したことはないが、教師のパソコンにハッキングしたことがバレれば、間違いなく退学は免れない。  が、真帆は既にハッキング以外の別の方法を考え出していた。  真帆はパソコンのキーボードを目まぐるしい勢いで叩き始める。  ルームメイトの亜紀は、それをどこか感心したような目で見ていたが、真帆は一瞥もせず、ひたすらにプログラムを作り続けていた。  パソコンに向かっている時の真帆の、いつもは眠そうな目が、生き生きと輝いている。  断続的にキーボードを叩く音が止んだのは、消灯時間もとうに過ぎ、空が白み始める時間のことだった。 「…出来た」  真帆はそう呟くと、制服に着替え、ふらりと部屋を出て行った。  向かった先は男子寮、想一の部屋である。
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