417人が本棚に入れています
本棚に追加
「準備、いい?」
真帆がかくりと首を傾げ、想一は親指を立てて見せる。
真帆は担当指導官の上田に、音声通信を発信した。
「あー、もしもし。上田だが」
咳払いと共に上田の声が聞こえると、想一は声のトーンを微妙に調整しながら
「近松です。お伺いしたいことが御座いまして」
と言った。
声はマイクを通して、近松の声へと変換されて、向こうに届いているはずである。
上田は疑うこともなく、すんなりそれを近松だと信じたようだ。
「なんだね。珍しい」
「えぇ、実は今度の戦闘訓練テストの組み合わせついてなのですが…」
想一はあらかじめ用意してあった台詞を、まるで役者のようにすらすらと告げた。
上田が考えた組み合わせを、成績に差がないか、不利な条件にあるのではないかをチェックしていたのだが、なぜこのペアを選んだのか理由を聞きたい。
「例えば、眞柴・遠藤ペアの相手ですが…」
想一がそう口にすると、上田はすんなり
「あぁ、相手は武藤・森田ペアだな。確かに武藤も森田も、武闘の成績はいいが…」
と相手の名前を教えてくれたのである。
想一は予想外に巧く言ったことに満足感を覚えながら
「なるほど。それなら、そこは問題ありませんね」
と、真帆に頼まれていた通り、次のペアの名前を出した。
「では、遠藤 長太郎・鳥原ペアは…?」
「橘・一三四ペアとは、いいバランスだと思ったんだが、君はそう思わないか」
逆に上田に聞き返され、想一はやや慌てたが、近松らしく冷静に
「私もそう思います。ただ作戦を立てると言う意味で、橘・一三四ペアの方が有利に見えたのですが、問題ないでしょう」
と対処した。
他にも怪しまれない程度にいくつか会話をした後、想一は
「ありがとうございます。また明日、授業で」
と上田との通信を切り、ふーっと大きく息を吐き出した。
「これで無事に相手を聞き出せたな」
「ん…」
想一の言葉に、真帆が頷く。
最初のコメントを投稿しよう!