演技者とゲーマー

14/15
前へ
/52ページ
次へ
「準備、いい?」  真帆がかくりと首を傾げ、想一は親指を立てて見せる。  真帆は担当指導官の上田に、音声通信を発信した。 「あー、もしもし。上田だが」  咳払いと共に上田の声が聞こえると、想一は声のトーンを微妙に調整しながら 「近松です。お伺いしたいことが御座いまして」 と言った。  声はマイクを通して、近松の声へと変換されて、向こうに届いているはずである。  上田は疑うこともなく、すんなりそれを近松だと信じたようだ。 「なんだね。珍しい」 「えぇ、実は今度の戦闘訓練テストの組み合わせついてなのですが…」  想一はあらかじめ用意してあった台詞を、まるで役者のようにすらすらと告げた。  上田が考えた組み合わせを、成績に差がないか、不利な条件にあるのではないかをチェックしていたのだが、なぜこのペアを選んだのか理由を聞きたい。 「例えば、眞柴・遠藤ペアの相手ですが…」  想一がそう口にすると、上田はすんなり 「あぁ、相手は武藤・森田ペアだな。確かに武藤も森田も、武闘の成績はいいが…」 と相手の名前を教えてくれたのである。  想一は予想外に巧く言ったことに満足感を覚えながら 「なるほど。それなら、そこは問題ありませんね」 と、真帆に頼まれていた通り、次のペアの名前を出した。 「では、遠藤 長太郎・鳥原ペアは…?」 「橘・一三四ペアとは、いいバランスだと思ったんだが、君はそう思わないか」  逆に上田に聞き返され、想一はやや慌てたが、近松らしく冷静に 「私もそう思います。ただ作戦を立てると言う意味で、橘・一三四ペアの方が有利に見えたのですが、問題ないでしょう」 と対処した。  他にも怪しまれない程度にいくつか会話をした後、想一は 「ありがとうございます。また明日、授業で」 と上田との通信を切り、ふーっと大きく息を吐き出した。 「これで無事に相手を聞き出せたな」 「ん…」  想一の言葉に、真帆が頷く。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

417人が本棚に入れています
本棚に追加