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「おーい!」
学院のどこかにはいるが、どこにいるか分からない“仲間”を探して、ひたすら叫びつつ、長い廊下を歩いているのは、遠藤長太郎。
運動、英語を除く勉強、顔、全てがそこそこの適度な優等生。
地味で目立たぬ亜紀とは正反対に、クラスでも目立つ明るい性格で、周囲に隠そうとしない特撮ヒーローオタクで、少しだけ空気が読めない。
そんな彼の後ろ姿を見付けると、亜紀は長太郎が歩くよりも、少し速い歩みで、その距離を縮めて行った。
始めは20m。
「とっりはらー!」
口元にメガホンのように手を当てて叫ぶ長太郎まで、大人しい亜紀の声はきっと届かないだろう。
亜紀の白い脚は音も立てず、さらに距離を詰めて、10m。
「ったく、どこにいるんだよ、鳥原ぁ!」
あと3m。
長太郎はまだ気付かない。
(なんて声を掛けようか)
そんなことを考えているうち、亜紀は長太郎の真後ろまで来ていた。
人間は半径1m以内を自分のテリトリーと考え、その範囲をパーソナルスペースと呼ぶが、亜紀は既に長太郎のテリトリーに侵略している。
(侵略者に気付かないなんて、これが敵なら簡単に暗殺されてる)
亜紀は少し呆れながら、ようやく声を掛けた。
すぐ近くにいる人物にしか聞こえない程の、囁き声で。
「…遠藤くん」
流石の長太郎も、余りに至近距離で声が聞こえたことに驚き、勢いよく振り向いた。
「…っ…!!」
長太郎と亜紀の距離、僅か20cm。
亜紀の聡明そうな額に、唇が触れてしまいそうで、長太郎は無意識のうちに、呼吸すら止めていた。
そんな近距離に近付かれるまで、亜紀の存在に気付かなかったのだ。
が、それは何も長太郎が鈍感であるせいだけではなく、亜紀のある種の体質のせいでもある。
気付いたら後ろにいる、不気味な奴。
決して根暗でも陰険でもない。人付き合いも悪くないが、亜紀はそう言われることが多い。
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