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「お…っ お前なぁ!気配消すなよ、びっくりすんだろーが」
ようやく長太郎が、亜紀に文句を零しながら一歩後ずさった。
「…別に好きで気配消してるわけじゃない」
亜紀は表情を変えずに淡々と答え、長太郎の目を見もせずに言った。
「で、何か用?」
「なんだっけ…?」
彼女を探すことに夢中になって、当初の目的を忘れていた長太郎は、男にしてはやや長めの髪を片手で掻き、それから少し大袈裟な動作でポンッと手を打った。
「あ、そうそう。来週の戦闘訓練の作戦、まだ決めてないから、話し合おうと思って」
戦闘訓練の作戦を決める。普通の人が聞いたら、ゲームの話かと考えるだろう。
しかし、彼らにとって、それが日常だ。作戦を決めるというのは、普通の中学校で言う所の、テスト勉強を一緒にしようと言っているのと変わらない。
そんなことを言いだすなんて、ふざけているように見えて、意外に長太郎は真面目だ。
亜紀は少し考える間を作り、それから
「…必要?」
と一言、ボブの髪を揺らして尋ねた。
亜紀の場合、単純に
(作戦は、全て長太郎が決めるだろう)
と思っていたから、話し合いをしようと言われたのが意外だったのだ。
「遠藤くんが決めていいよ。私は、それに従う」
わざわざ話し合うなんて、面倒だ。
亜紀はそう告げたが、長太郎はニッと笑い
「俺達、仲間なんだから作戦は一緒に考えようぜ」
と、亜紀の肩をポンと叩いた。
(たかが授業でペアを組んだだけなのに)
亜紀は呆れ半分だったが、結局一つ頷いた。
「そうだね。じゃぁ、一緒に考えよう。今日は時間がないから、明日の放課後、教室で」
亜紀はそう言って、返事を待たず、すっと長太郎の横をすり抜けた。
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