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帰寮の道を歩きながら、亜紀は小さな唇から溜息を零した。
(戦闘訓練、かぁ…)
やらねばならないことではあるが、いくら授業とは言え、気が重い。
東都防衛学院―――亜紀が通うのは、低迷する日本国家で初の、防衛教育に特化した私立中高一貫校である。
英語や数学など、一般的な学生と同じ教養を身に付けると同時に、体育とは比べ物にならない厳しい基礎体力の錬成の授業があったり、軍事の基本である、小銃の取り扱い方、射撃、衛生管理、格闘などの専門分野を学ぶ、特殊な学校だ。
「軍は、愛国心溢れる若者を求めています」
少し前まで亜紀は、そんな言葉には興味もない、普通の少女だった。
離婚した父とは音信不通で、貧乏だが、それなりに幸せな極普通の生活。
女手一つで、亜紀と妹の二人姉妹を育てる母は
「ごめんね」
と毎日謝っていた。
そんな時、目に入ったのが、この東都防衛学院のパンフレットだ。
当初は防衛教育など、さっぱり興味もなかったが、亜紀の中にある思いが芽生えたのである。
(母に苦労を掛けなくても済むように、早く自立したい)
幸い、亜紀はマーチングバンド大会優勝の経験があり、音楽特待生として、東都防衛学院への入学にお金は掛からない。
最初、母は反対していたが、普段大人しい亜紀が初めて
「この学院がいい。卒業後の就職も確実だし、何より学費がタダだから」
と押し切ったのだ。
実際に入学後は友人も出来、一般教養科目の成績も悪くない。
最初は戸惑ったが、小銃の分解や整備にも慣れた。
しかし、未だに慣れないのが、ひたすら体力を上げるのが目的の基礎体力錬成の授業と、武術、格闘、そして問題の戦闘訓練である。
反射神経は悪くないが、細身で体力の乏しい亜紀には、肉体を使う授業は余りに厳しい。
特に戦闘訓練の授業では、より実戦に近い戦闘を学ぶため、銃撃戦だけでなく、ナイフや格闘技を使う肉弾戦も習得しなくてはならないのだ。
来週の戦闘訓練のテストは実技で、亜紀は遠藤長太郎とペアを組み、他のクラスメイトと戦わなくてはならない。
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