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翌日、午前中は数学と英語、情報処理と射撃の授業を受け、午後は生物学と弾道学。
体育や格闘系の授業がないから、亜紀にとっては楽な一日だった。
本来なら放課後は吹奏楽部の活動があるのだが、残念ながら、テスト前は全ての部活動が停止される。
(遠藤くんとの約束、今日だ…)
そんなことをぼんやりと考えながら、亜紀は机の上を片付け、窓の外を見た。
電線にカラスがおり、カラスの方もその黒い目を亜紀に向けている。
亜紀の小さな唇が、微かに笑みを描いた……が。
「鳥原ぁ!」
教室中に響く長太郎の声がした。
そう大きな声で呼ばなくても、約束は忘れていないし、耳も悪くない。
が、それを口にすることなく、亜紀は眼鏡を外し、長太郎を見た。
「よし、作戦立てようぜ!」
亜紀の元に来た長太郎が、鬱陶しいほどの笑顔で親指を立てて見せた。
長太郎は、普通にしていても声が大きい。
まだ他の生徒のいる教室で話し合いをするなど、敵陣で堂々と作戦を立てるようなものである。
「教室じゃなくて…別の所にしない?」
「腹も減ったし、食堂で何か食べながら話すか」
食堂など、余りに人が多過ぎる。
亜紀は首を横に振った。
「私、お腹空いてないし、もっと静かな所…」
と言い掛け、すぐに言い直した。
空気の読めない彼には、その言い方では伝わらないからだ。
「人がいない所に行こう。作戦立てるなら、人に聞かれちゃマズイでしょ」
亜紀の言葉に、長太郎は少しポカンとし、それから鋭い眼つきで
「なるほど、作戦は隠密に…って奴だな」
と声を潜めて見せる。
そして、その後にはすぐ
「隠密作戦って、響きが格好いい」
と目を輝かせているのを見て、亜紀は肩を竦めた。
戦隊物が好き過ぎて、ヒーローに憧れてこの学院に入学したというだけある。
長太郎のわざとらしい程に分かりやすい性格は、亜紀から見ると、まるで二次元のキャラクターのようだ。
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