417人が本棚に入れています
本棚に追加
「お願いったって…どうするよ?」
戦術というものを持たない長太郎が、小さく肩を竦める。
「何もしなくていい。時間が来たら、ここから動かないで、橘さんの名前を叫んで」
「はぁ?それだけ?それじゃ、俺の活躍の場がねえじゃん」
不満げに口を尖らせた長太郎に、亜紀は言った。
「大丈夫。遠藤くんなら、その場に立ってるだけで目立つし、活躍出来るよ。それに…」
亜紀がちらりと横目に、長太郎を見た。
そして、先はこう続く。
「ヒーローは、自分から攻撃を仕掛けない。相手が攻めて来たら、初めて動くものでしょ」
「……」
長太郎の目が、みるみるうちに輝きを取り戻す。
「だな!俺はその場を動かず、敵を迎え撃つ」
単純で助かる、と亜紀は内心に呟き、両手のプロテクターを嵌め直した。
「戦闘開始、30秒前」
放送から流れて来た声に、緊張が走る。
その時、不意に隣の長太郎が、亜紀を見た。
「鳥原」
「何?」
一拍遅れて亜紀が振り向くと、長太郎は清々しい笑顔で言った。
「ヒーローってのは、女、子どもの味方だ。鳥原は絶対に俺が守るから、安心しろ」
格好いいことを言っているようだが、ズレている。
「…うん」
こくん、と頷いた亜紀の目付きが鋭くなった。
「開始5秒前。3・2・1」
ブザー音がし、戦闘開始と同時、亜紀は早くもその場を離れた。
施設内に建てられた建物の影を、物音も立てずに進む。
「鳥原、俺の後ろに…」
いろよ、と長太郎が振り向く頃、既にそこに彼女はいない。
最初のコメントを投稿しよう!