暗殺者とヒーロー

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「お願いったって…どうするよ?」  戦術というものを持たない長太郎が、小さく肩を竦める。 「何もしなくていい。時間が来たら、ここから動かないで、橘さんの名前を叫んで」 「はぁ?それだけ?それじゃ、俺の活躍の場がねえじゃん」  不満げに口を尖らせた長太郎に、亜紀は言った。 「大丈夫。遠藤くんなら、その場に立ってるだけで目立つし、活躍出来るよ。それに…」  亜紀がちらりと横目に、長太郎を見た。  そして、先はこう続く。 「ヒーローは、自分から攻撃を仕掛けない。相手が攻めて来たら、初めて動くものでしょ」 「……」  長太郎の目が、みるみるうちに輝きを取り戻す。 「だな!俺はその場を動かず、敵を迎え撃つ」  単純で助かる、と亜紀は内心に呟き、両手のプロテクターを嵌め直した。 「戦闘開始、30秒前」  放送から流れて来た声に、緊張が走る。  その時、不意に隣の長太郎が、亜紀を見た。 「鳥原」 「何?」  一拍遅れて亜紀が振り向くと、長太郎は清々しい笑顔で言った。 「ヒーローってのは、女、子どもの味方だ。鳥原は絶対に俺が守るから、安心しろ」  格好いいことを言っているようだが、ズレている。 「…うん」  こくん、と頷いた亜紀の目付きが鋭くなった。 「開始5秒前。3・2・1」  ブザー音がし、戦闘開始と同時、亜紀は早くもその場を離れた。  施設内に建てられた建物の影を、物音も立てずに進む。 「鳥原、俺の後ろに…」  いろよ、と長太郎が振り向く頃、既にそこに彼女はいない。
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