暗殺者とヒーロー

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 一方、施設の反対側。 「私は遠藤 長太郎。あなたは鳥原 亜紀を倒して」  明瞭な口調でそう命じたのは、学年トップの成績を誇る橘 和美だ。 「え、なんで相手を知ってるんですか?」  奇しくも長太郎と同じ質問をしたのは、一三四 善司(ニナイゼンジ)。  見るからに華奢で、引っ込み思案な少年である。  それに対し、和美は目力も気も強い。 「鳥原さんがさっき私の所に来て、自分達が相手だって宣戦布告したの」  しかし、負けない自信が和美にはある。  相方のニナイは頼りない所か、和美のお荷物になり兼ねないほど、実践に不向きではあるが、それは相手も同じだろう。  運動能力の優れた長太郎と、体力的に劣る亜紀。 (1対1に持ち込んで、私が遠藤くんを倒せば、鳥原さんなんてどうにでもなる)  敵が誰であろうと勝つ自信があるが、相手が分かっているなら、猶更だ。  表には出さないが、正直、和美は長太郎が苦手だ。  あの単純な性格にも関わらず、長太郎は英語以外の成績が何故か良く、学年トップの和美を、幾度となく脅かして来たからだ。  そう言う意味でも、今回の戦闘訓練の相手が長太郎であることは、和美にとって好機だった。  ここで完全に相手を負かせば、一番でいられる。 「開始5秒前。3・2・1」  放送とブザーの音がすると同時、和美はホルダーから銃を抜き、反対側にいるだろう長太郎を睨むように、眼光を鋭くさせた。  が…… 「橘 和美ぃぃい!」  驚くほど大きな声で名を呼ばれ、ギクリとする。  紛れもなく、長太郎の声だ。 「俺は動かないで、ここで待ってるからな!ハッハッハッ!向かって来ぉい!」  一体何を考えているのか、長太郎の堂々宣言に、普段は冷静な和美も呆然としてしまう。  普通なら、そんな宣言は、ただの挑発か罠と受け取る所だが、長太郎の場合は別だ。 (彼なら、本気でやりかねない)  目指す所は正義の味方、嘘はつかず、弱者を守る者。そんな恥ずかしくなるような言葉を、堂々と言うような男だ。
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