417人が本棚に入れています
本棚に追加
一方、施設の反対側。
「私は遠藤 長太郎。あなたは鳥原 亜紀を倒して」
明瞭な口調でそう命じたのは、学年トップの成績を誇る橘 和美だ。
「え、なんで相手を知ってるんですか?」
奇しくも長太郎と同じ質問をしたのは、一三四 善司(ニナイゼンジ)。
見るからに華奢で、引っ込み思案な少年である。
それに対し、和美は目力も気も強い。
「鳥原さんがさっき私の所に来て、自分達が相手だって宣戦布告したの」
しかし、負けない自信が和美にはある。
相方のニナイは頼りない所か、和美のお荷物になり兼ねないほど、実践に不向きではあるが、それは相手も同じだろう。
運動能力の優れた長太郎と、体力的に劣る亜紀。
(1対1に持ち込んで、私が遠藤くんを倒せば、鳥原さんなんてどうにでもなる)
敵が誰であろうと勝つ自信があるが、相手が分かっているなら、猶更だ。
表には出さないが、正直、和美は長太郎が苦手だ。
あの単純な性格にも関わらず、長太郎は英語以外の成績が何故か良く、学年トップの和美を、幾度となく脅かして来たからだ。
そう言う意味でも、今回の戦闘訓練の相手が長太郎であることは、和美にとって好機だった。
ここで完全に相手を負かせば、一番でいられる。
「開始5秒前。3・2・1」
放送とブザーの音がすると同時、和美はホルダーから銃を抜き、反対側にいるだろう長太郎を睨むように、眼光を鋭くさせた。
が……
「橘 和美ぃぃい!」
驚くほど大きな声で名を呼ばれ、ギクリとする。
紛れもなく、長太郎の声だ。
「俺は動かないで、ここで待ってるからな!ハッハッハッ!向かって来ぉい!」
一体何を考えているのか、長太郎の堂々宣言に、普段は冷静な和美も呆然としてしまう。
普通なら、そんな宣言は、ただの挑発か罠と受け取る所だが、長太郎の場合は別だ。
(彼なら、本気でやりかねない)
目指す所は正義の味方、嘘はつかず、弱者を守る者。そんな恥ずかしくなるような言葉を、堂々と言うような男だ。
最初のコメントを投稿しよう!