暗殺者とヒーロー

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「…どうします?」  おずおずとニナイに尋ねられ、和美は 「行くしかない。予定通り、私は遠藤くん。あなたは鳥原さんを」  そう繰り返して、ニナイに背を向けた。  向かうは、長太郎のいる南。そこに辿り着くための道は、何通りかある。  中央の道を通るのが一番早いが、それでは長太郎の正面に出てしまう。  和美が選んだのは、一番左の通路だった。左側を壁に付け、利き手の右を空けておく。  そうすれば、敵を発見次第、すぐに攻撃に移れるからだ。  例え、同じ道を亜紀が反対側から来たとしても、亜紀なら正面から勝負でも、負ける気がしない。  問題は、長太郎が本当にその場から動かずにいるのか、という点だったが… 「おーい!橘 和美ぃ!聞こえてるかー!」  余りに大きな声で叫ぶ長太郎の位置は、明らかだった。 (なんて単純な…)  呆れを通り越して、いっそ褒めたくなるほど、ヒーロー体質な男だ。  和美は左側面を壁に触れさせるようにしながら、まるで豹のようなしなやかさで、長太郎との距離を詰めつつあった。 (あと30m…)  右側には市街戦を想定した仮設の建物があるが、その影から人が現れる気配はない。  いくら気の弱いニナイでも、亜紀を足止めするくらいの役には立つだろう。  そもそも、体力的に不利な亜紀が、和美を狙って来るとは考えにくい。 (鳥原さんが狙うなら、ニナイの方…)  下手をすると、亜紀は戦闘に参加せず、長太郎一人でこのテストを乗り切るつもりかも知れない。  事実、テストの前、亜紀は和美の元に来て 「ちゃんと挨拶しておこうと思って…」 と、自分達が相手であることを告げ 「多分、長太郎くんが頑張ってくれると思う。私は戦闘の役に立たないし…。あの、お手柔らかにお願い…」 と、控えめに頭を下げたのである。
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