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問題は、長太郎だ。
いくら和美が中国武術の使い手で、接近戦が得意でも、相手は男。筋力では劣る。
(でも、回り込んで横から不意を突けば…)
既に和美は、長太郎のいる場所から2ブロックの所まで来ている。
あと1ブロック。
次の角を曲がれば、長太郎の姿が見えるはずだ。
和美は左側面から体を離し、建物に右肩を付けた。
「和美ぃい!」
恥ずかしい程の大声で、長太郎が叫んでいる。
建物の影からちらりと見ると、長太郎は本当にそこにいた。
流石にただぼんやりと立っているのではなく、右手に銃を持ち、視線を左右に配ってはいたが、和美は勝機を確信していた。
長太郎が反対側に視線を向けた時に、一気に飛び出せるよう、腰を屈め、前傾姿勢を取る。
(これなら、簡単に…)
そう思うのとほぼ同時、長太郎の視線が逸れた。
(今だ…!)
和美が右足を踏み出し、銃を構えた、その瞬間。
不意に真後ろから声がした。
「…橘さん」
囁くような、至近距離の人間にしか聞こえない声で。
「……っ?!」
いつの間に、誰が、どうして―――。
和美がヒュッと息を飲むのと、長太郎が振り向くのでは、彼の方が一拍速かった。
スローモーションのように、長太郎が銃を構えるのが、和美の鋭い瞳に映る。
そして、1秒後。
―――ピシャッ
和美の胸元に赤いペイント弾がぶつかっていた。
「ハッハッハ!討ち取ったりぃ!」
「嘘…っ」
和美は思わず、自分の胸元に広がる血の様に赤いインクと、目の前のヒーローポーズの長太郎とを見比べた。
慌てて後ろを振り向くが、そこには人の影どころか、痕跡すらない。
そして
「勝者、遠藤・鳥原チーム。戦闘終了」
と言う放送が流れる。
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