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彼女の脳裏に、今日の戦闘訓練のテストのことが蘇る。
男女ペアを組み、相手チームを実践形式で倒す実技テストだ。
体力的に頼りない一三四 善司(ニナイゼンジ)とペアだったとは言え、絶対に勝つ自信があったはずの和美は、ヒーローオタクの遠藤 長太郎と、大人しい鳥原 亜紀のチームに負けたのである。
「ハッハッハ!討ち取ったりぃ!」
一瞬気が逸れた瞬間に、びしゃりと胸にペイント弾がぶつかり、気付くと目の前で長太郎が笑っていた。
「勝者、遠藤・鳥原チーム。戦闘終了」
と言う放送の声が、まだ和美の耳に残っている。
それは和美にとって、ショッキングな出来事だった。
「よくやったな、遠藤、鳥原」
教師の言葉と共に、クラス中の視線が長太郎に集まり、和美を見る者はいなかった。
「よっしゃー!ヒーロー、ここに見参!」
戦隊物風のポーズを決めて見せた長太郎を中心に、笑いと拍手が広がる。
しかし、和美だけが、笑っていなかった。
(負けた…)
テストで、一番を取れなかった。
その悔しさを思い出し、和美は唇を噛んだ。
遠藤 長太郎の得意科目は、数学。
戦闘訓練のテストで負けたからには、せめて数学では勝たなくてはならない。
(次は絶対に一番を取る)
そうして、和美は視線を再び数学の参考書へと戻した。
翌朝、和美はいつもより少し寝坊をした。
普段なら朝四時には目を覚まし、ランニングと授業の予習を欠かさない。
が、昨夜少し遅くまで勉強をしていた所為で、今日は朝六時の起床である。
「……っ」
慌てて制服に着替え、まず取り出したのは数学の参考書だった。
昨夜やり残した問題が、まだ解けていない。
(やらなくちゃ)
懸命に数式を見る和美の目は、まるで眠気を宿していない。
そして、その日の授業も全てなんなくこなした。
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