競争者とドクター

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 見回りと言っても、それは意外に大変な仕事だ。  トイレの掃除が出来ているかどうか、廊下にゴミが落ちていないかなどの簡単な項目だけでなく、武器庫の鍵がきちんと閉まっているか、弾薬や銃がきちんと元の場所に帰されているかなど、おおよそ普通の中学生では考えられないチェック項目がある。 「9mm×19mmパラベラム弾のケースの数、数えた?」  弾薬庫で和美が尋ねると、善司は慌てた様子で 「いえっ…まだです」 と怯えたような目を向けた。  善司のそんなおどおどとした性格で、何故この学院に入学して来たのか、和美は知らない。  噂によると、彼の両親は軍医で、彼自身もまた軍医を目指す為にここに入学したのだと聞いたことがある。  確かに善司は、生物分野においての成績は優秀だが、それまでだ。  戦闘訓練や基礎体力など、実技となると極端に弱い。  そして、銃の扱いも余り得意ではないようで、どちらかと言えば争いごとを避けて通るような少年だ。  ついでに言うのであれば、自分に自信がないのか、善司は 「僕なんかより、すごい人がいっぱいいる」 と言うのを口癖にしている所があり、実際に要領も悪い方である。 「…いいよ、私が数えとくから。あなたはライフル弾の方、数えて」  和美は極力穏やかに聞こえるように取り繕って言ったが、内心では焦りがある。  もうすぐ期末テストが近い。  早く寮に帰って、勉強したかった。  和美は学年トップの成績を誇るが、それは決して秀才だからではない。  何事も常に一番を目指し、努力に努力を重ねて来たからだ。  そして、それは同時に、努力をしていないと不安に襲われるということだ。 (一番じゃなきゃ、両親はきっと失望する)  そんな強迫観念にも似た強い恐れこそが、和美の強さの秘訣でもある。  弱さと強さが共存し、不安定な自分に、彼女自身は気付いていない。
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