競争者とドクター

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 不意に、控えめに和美の部屋の扉をノックする音が響いた。 「……っ」  和美は慌ててベッドから起きたが、まだフラつく。  しかしそれでも、両頬を叩き、いつもと同じ顔で扉を開けた。  すると、そこに善司が立っており、両手でトレイを持っている。 「あの、食堂から、持って来ました。まだ出歩くのは辛いかな、と思って」  トレイの上には二人分の夕食と、フルーツゼリーが乗っている。  食堂ではデザートは出ないから、善司が少しでも栄養になればと、購買で買って来たのだ。 「なんで二人分?」  和美が尋ねると、善司は頬をいっそう赤くして 「一人でご飯食べても、あれかなって思いまして…」 と言う。 「あ、そう」  仕方あるまい。  部屋に男子生徒を入れるのは初めてだったが、和美は善司を室内へと迎え入れた。  トロフィーと賞状。善司の目にまず入ったのは、それだ。 「わぁ、すごいですね」  屈託のない笑みを浮かべる善司に、和美は小さく鼻を鳴らす。  いつでも 「僕なんかより、すごい人が沢山いる」 と言えるのは、善司の長所でもあるが、和美には (ネガティブな考え方) としか思えないのだ。  和美と正反対の性格をした善司と、一緒に食事を取る日が来るとは思ってもみなかったが、ここまで来て彼を追い返すわけにもいかない。 「トレイはそこに」  そう言って和美がテーブルを見、善司を振り向いた時、またしても眩暈に体が傾いた。 「橘さん…っ」  テーブルにトレイを置いた善司が、慌てて和美に駆け寄って来る。 「平気だから」  和美はそう言ったが 「ベッドに入って下さい」  背を押され、結局、ベッドに戻ることになってしまった。
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