417人が本棚に入れています
本棚に追加
不意に、控えめに和美の部屋の扉をノックする音が響いた。
「……っ」
和美は慌ててベッドから起きたが、まだフラつく。
しかしそれでも、両頬を叩き、いつもと同じ顔で扉を開けた。
すると、そこに善司が立っており、両手でトレイを持っている。
「あの、食堂から、持って来ました。まだ出歩くのは辛いかな、と思って」
トレイの上には二人分の夕食と、フルーツゼリーが乗っている。
食堂ではデザートは出ないから、善司が少しでも栄養になればと、購買で買って来たのだ。
「なんで二人分?」
和美が尋ねると、善司は頬をいっそう赤くして
「一人でご飯食べても、あれかなって思いまして…」
と言う。
「あ、そう」
仕方あるまい。
部屋に男子生徒を入れるのは初めてだったが、和美は善司を室内へと迎え入れた。
トロフィーと賞状。善司の目にまず入ったのは、それだ。
「わぁ、すごいですね」
屈託のない笑みを浮かべる善司に、和美は小さく鼻を鳴らす。
いつでも
「僕なんかより、すごい人が沢山いる」
と言えるのは、善司の長所でもあるが、和美には
(ネガティブな考え方)
としか思えないのだ。
和美と正反対の性格をした善司と、一緒に食事を取る日が来るとは思ってもみなかったが、ここまで来て彼を追い返すわけにもいかない。
「トレイはそこに」
そう言って和美がテーブルを見、善司を振り向いた時、またしても眩暈に体が傾いた。
「橘さん…っ」
テーブルにトレイを置いた善司が、慌てて和美に駆け寄って来る。
「平気だから」
和美はそう言ったが
「ベッドに入って下さい」
背を押され、結局、ベッドに戻ることになってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!