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枕を背に、上半身を起こした和美の元に、善司が食事のトレイを運んで来る。
「はい、どうぞ」
そう言って食事を差し出して来た善司の指先に、和美はその鋭い二重の瞳を、少し丸くした。
(この手…)
彼の手は、爪が綺麗に切り揃えられた、柔らかそうな指先をしていた。
(昨日、私の髪を撫でたのは、彼…?)
力がそうあるようには見えない彼が、一体どうやって和美を医務室まで運んだと言うのだろう。
「昨日、私が倒れた時、誰が医務室まで運んでくれたの?」
和美はそう尋ねて置いて、後から
「その人にお礼言いたいから」
と付け加えた。
誰だか知らないが、弱っている自分を見られたのが善司だけではなく、他にもいるとなると、その人物を知っておきたい気持ちが、和美にはある。
が、善司は
「あ…えぇと、僕が…」
と頬を林檎の様に赤くしながら言った。
「え、あなたが?」
意外そうな和美の目付きに、善司の顔がますます赤くなる。
「その…っ すみません、もしかしたら手とか足とか…少しぶつけちゃったりしたから、痛んだりしますか?」
不安げに和美を見る善司に、和美は
「別に」
と一言で返した。
(彼が私を運んだ…?)
彼の体格では、かなりの重労働になったに違いない。
そんなことを和美が思っていると、善司は
「僕だって、一応、男ですから…あの、運ぶくらいは…」
と小さく呟く。
一応、男ですから。
まだ男というより少年の域を出ないが、善司の口から零れたその言葉に、和美は
(部屋に男の子入れて、大丈夫かしら)
と妙に意識してしまう。
が、和美はそれを言うことなく、ただ黙々と食事を取った。
ベッドの横に椅子を持って来た善司も、何も言わずに食べている。
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