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(別に私がキャンディー舐めたって、誰も損しないし)
そんなことを思いながら、苺ミルクのキャンディーを舐め始める。
そして、そんな真帆の右隣の男子生徒もまた、目の前の赤文字を破っていた。
制服のズボンを履いた脚の間に、ポップコーンの袋を挟み込み、その中に手を突っ込んでいる。
真帆は、その手がポップコーンを掴んで持ち上がるのを、目で追った。
整った顎のラインに、縁なしの眼鏡、形の良い二重の目は、何かに集中してパソコンのディスプレイを見詰めている。
真帆のクラスメイトである、眞柴 想一(マシバソウイチ)―――映画監督の父と、女優の母を持つ。縁なしの眼鏡を掛け、母親似の顔は整っている。
真帆と同じように、目立ちはしないが、一部の女子に人気のある青年だった。
そして、彼もまた自分が人気であることを、全く自覚していない。
「…ポップコーン」
真帆がぽつりと呟いた声に、想一の視線がディスプレイから離れ、やや驚いたように真帆を見た。
規則違反をしていることを咎められるかと思ったのだ。
が、真帆もまた棒付きキャンディを口にくわえているのを見て、安堵したように笑みを漏らす。
「なんだ、遠藤さんか」
「…眞柴ソウイチ」
お互いに名前を確認し合っただけで、それぞれの視線はすぐに目の前のディスプレイへと戻って行った。
想一は、映画を見る。ポップコーンを食べながら。
真帆はいつもと同じように、オンラインゲームで敵を倒す。キャンディを舐めながら。
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