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その日の午後、新型の小銃を使った射撃の授業にて。
「今回の銃は新型で、小さい割に威力が強い。よし、眞柴、撃ってみろ」
教師に言われ、想一は
「はい」
と返事をすると同時に、つい先ほど見たアクション映画のワンシーンを思い出していた。
想一はまだひげも生え始めていないが、あの俳優は渋い無精ひげを生やしており、眼光も鋭い。
「よし、早撃ちの決闘だ。悪いが、俺ぁこの辺じゃ誰にも負ける気はしねぇな」
想一はあの俳優と同じセリフを呟き、ニヒルに笑い、腰に手をやる。
制服のベルトに挟んだ小銃を掴み、一瞬でそれを引き抜くと、前方の的の中心を狙って一発。
パァン…!
乾いた発砲音と手が痺れるような反動があり、想一は高揚感を感じた。
が、それを表情に出さぬように、くるくるっと銃を回して、ベルトへと収める。
(決まった…!)
一発で敵が倒れる映画のワンシーンを思い出しながら、中心を撃ち抜かれているであろう的を見る。
しかし、想一の弾は辛うじて的に当たってはいたが、中心からは程遠く、かなり上部にその風穴を開けている。
「名人でも外すことはあるさ」
想一が妙に演技じみて、ひょいと肩を竦めた。
想一が映画好きで、やたらと映画のセリフやシーンを引用する癖があることを、クラスメイト達は知っている。
「まーたやってるよ」
と笑い声を出す生徒を収めるように、教師が
「まぁ、当たっただけでもよしとしよう」
と、次の生徒を指名した。
「遠藤 真帆。やって見ろ」
「…はい」
真帆は静かに前に出て、眠そうな目で的を見た。
キーボードを叩くことに特化した白い指先が、銃を握る。
中心を狙い、一発。
的をかする所か、大きく上に逸れる。
クラスの誰も、真帆に期待はしておらず、特に反応もない。
が、真帆は続けざまに二発目を撃った。
パァン…!
乾いた音がもう一度響き、生徒達は少し驚いたように真帆を見、それから的へと視線が集まる。
的の中央、赤い印に見事命中していた。
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