0. その本は、とても曖昧な存在で。

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 『願いの書』という物は知っているだろうか?    『願いの書』。  その本に書き込んだ願望は、どんな内容のものだろうと叶えることができる。  しかし、その願いを実現するのには、願望と同等の対価を本に書き記し、『願いの書』に献上しなくてはならない。    例えば、「好きな子と両想いになりたい」と願うのなら、その人物と同等の存在である人間の感情が、その願望の対価となる。   「お金が欲しい」と願うのなら、その金額と同等の物が願望の対価となる。  「世界が欲しい」と願うのなら、その世界と同等のものが願望の対価となる。  「死んだ人間を生き還らせてほしい」と願うのなら、その人間と同等の存在が対価となる。  そんな感じの、不思議なようで薄気味悪い本のことだ。  その本を所持している人のことを、一般的には『願人(ねがいびと)』と呼ぶ。  『願人』自身が願望を叶えるというわけではないが、『願いの書』を常に持ち、人の願望を叶える時もその傍(かたわ)に絶えずいることから、まるで『願いを叶えてくれているような人』だというイメージを持たれているので、そう呼び名が付いたらしい。  実際の呼び名がなんなのかは不明だが、世間ではそうなっているらしい。  いや。  世間と言っても、それはこの田舎町の中だけのことだ。  そもそも都会の人達はこの話を知らないだろうし、この話には確かな根拠が無い。  そう。  これは噂というか、この町の都市伝説のようなものだ。  人から人へ伝わり、この町の住人には広く知れ渡っている話だ。    だが実際に、その『願人』や『願いの書』を見たことがある人もいるようだが、それも噂程度の話だ。  確かな証拠を持っている人はいない。  それだけ脆く、真実性の薄い話。  故にこの町の噂となり、都市伝説となっている。
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