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「いやでも……」
有り得ない。達弥にどれだけ話を聞かされようと、どれだけリアリティのある情報を出されようと、それが事実であることを認めることは難しかった。
科学が発展したこの世界で、そんな魔法のような存在は皆無だ。この広い地球、未開拓地があるのは当然だし、未知の技術があることも否定はしきれない。
だが、それでも、耀にはそれを信じられるほど、ロマンチストではなかった。
すると、達弥はやれやれと言った表情で一息つき、先ほどまでの真剣な表情を崩す。
「――僕だってさ、信じているわけじゃぁない。ありえない。でもさ、実際に送られてきたんだ。なぁ、僕たちはこれまで心踊るような体験をしたかい? 僕は非現実を求めているんだよ。何もかもが解明されたこの世界はつまらないよ」
達弥はゆっくりと教室の天井を見上げた。もう教室に残っているのはこの二人だけだ。窓の外からは夏の陽光がジリジリと入ってくる。
「耀。信じてくれなくてもいい。でも、試してみないか? これが本当に真実なのか。それとも都市伝説なのか――」
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「ふぅ……」
耀は自宅のベッドに仰向けに倒れこんだ。何故かこうすると、一日の疲れがとれるような気がした。
耀は目を瞑って今日達弥から聞いたことを反芻する。冷静に考えてみれば、やはりおかしい話だった。
しかし、達弥の熱意に押されたとはいえ、自分も少し期待しているのは確かだ。
平凡な生活に特に不満を抱くことはなかった。
強いていえば、色が無い。達弥の言ったとおりだ。半分馬鹿にして聞いていたものの、話にそそられる部分はあった。
年頃の男だったら、誰でも一度は望むだろう。自分が勇者になったり、魔法を使ったり……。
そう、夢物語だ。分かっている。そんなことは耀にだって分かっていた。でも、してみたい。無理だとは分かっているけど、やってみたいとは思っていた。
だから、受けた。達弥の誘いを。
輝はゆっくりと立ち上がり、デスクの上に置いてあるパソコンの電源を入れる。
黒光りした機体が僅かな起動音をあげると、すぐに画面がついた。このパソコンは先月出たばかりの最新モデルだ。使い道のなかったお年玉を大分叩いて買ったものだった。
「うーむ、やっぱり最新のは性能が良いな」
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