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「…っつーか、遅せぇな…。
……っ……!!?」
ぽつりと呟いた誘鵺は、己の目に写ったものが信じられないとでもいうように、愕然とした表情で箏音の後ろを凝視して固まった。
「………?
いったいどう……」
振り返り、箏音も誘鵺と同じく美しい顔を歪めて固まった。
「…あぁ!?
もうとっくにおるわい。
相変わらず、お主の目は節穴のようじゃな。
それにな、全然間に合っとらんわ、戯けが。
本当に相変わらず、お主は救いようのない莫迦らしい」
まるで地鳴りのように。
低く太い、腹に響く声。
いつの間にか。
本当にいつの間にか、痩身で、しかし逞しい老人が、威厳ある佇まいで長の席に座していた。
白く長い髭、深く刻まれた皺。
深い藍色に染まった着物が、その男の雰囲気に良くあっていた。
「お主もじゃ、箏音。
そんなアホと一緒におれば、お主までアホが伝染るぞ」
大雑把に、しかし皮肉を込めて老人は笑った。
そして老人は深く息を吸い――空気が変わる。
鋭利な刃のような、薄ら寒い恐怖だけが空気を漂い、その場の生き物の緊張を最高まで引き上げた。
「…いよいよ明日じゃ。
儂らが待ち望んだ、“摩訶の戴冠”<マカ・クラグ>は、いよいよ…!!」
さほど大きな声で話しているわけでもないのに、その威圧感に誰もが押し黙る。
――否、まるでそれが当たり前のように錯覚する。
この男の前では、誰もが沈黙せざるを得ないような――服従せざるを得ないような。
そんな気持ちにさせられるのだ。
――それこそが、彼が長たる所以なのだから。
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