第一章・目醒め

9/10
前へ
/12ページ
次へ
「皆に集まってもらったのはな、目醒めの時を迎えた“摩訶”に“牙”<キバ>を捧げねばならんからじゃ」 どこか酔っているような、それでいて哀しみに沈んでいるような、不思議な声音で老人は告げた。 ――しぃん、と。 耳が痛くなるほどの静寂が、老人の言葉によって呼び込まれる。 そう、それは――あまりにも衝撃的な言葉であったのだ。 ――“牙“を、捧げねばならない。 それがどういう意味を持つのか、痛いほどわかっていたから。 驚かずにはいられなかった。 畏れずにはいられなかった。 そして――怒らずにはいられなかった。 どうしてこのようなことになったのかと、この場で思わない者はいなかっただろう。 罵らない者はいなかっただろう。 しかし、胸に渦巻く数多の感情を口に出して言う者もまた、いなかったのだ。 ――ただひとりを除いては。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加