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まだ薄暗く、朝日も漸く起き出す頃。
雄鶏のけたたましい声が、夜の静寂を切り裂いた。
「…時間通りだな。
全く、お前は本当に優秀だよ」
立ち枯れた桜の樹に腰掛けた黒い影が、笑いながら雄鶏に言った。
それに対して雄鶏は、コケ、コケー、と、惚けた声を出しながら首を傾げるだけだ。
それは当たり前と言えば当たり前のことだったが、黒い影にとっては意外なことであった。
眉を上げ、苦笑混じりに呟く。
「おい、話ぐらいしたらどうだ?
今は誰も居ないのだから」
「………。
…そうですね。
“若”がそう仰るのなら…」
雄鶏の口が微かに動き、ヒトの言葉を紡ぐ。
ぷるぷると小さな躯を揺らし、白い羽根を辺りに散らし――。
雄鶏は、ヒトの姿へと変化した。
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