第一章・目醒め

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しぃん、と。 黒い影の言葉が静寂に呑み込まれ、耳鳴りとなって返ってくる。 耳鳴りが数瞬響き、山の後ろから太陽が完全に姿を現した。 太陽の光が黒い影の闇を拭って、その正体を白日の下に晒した。 息を呑むほどに美しい、その姿を。 憂いを帯びた瞳。 自嘲を含んだ笑みを浮かべる口許。 風に靡く漆黒の髪。 どこがどう、とかいうことではなく、ただ美しい。 そんな女の姿を。 そして、一際目を引くのは、黒い影の背に生えた、濡れ羽色の翼。 その翼が朝日に照らされ、酷く不吉に、けれど酷く美しく、輝いた。 その光景を見て、呼朝は顔を歪めた。 彼女にとって、今の情況はどれほど辛いことなのか。 考えるまでもなく感じられるくらいには、相当堪えているのだ。 私などには窺い知れぬ苦悩が、きっとあるには違いないのだから。 家に、血に、力に、友に。 縛られ、絡め取られ、身動きさえ許されぬままに。 彼女は押し流されていくだけなのだから。 若く美しいから尚。 その姿は凄惨で凄艶で、あまりに哀れだった。 「………。 そんな風に押し黙るな。 気まずくなるだろうが」 苦笑しながら言う黒い影を、呼朝は憐憫を込めて見つめる。 そして、努めて明るく、呼朝は言った。 「…ふふ、そうですね。 “箏音”<コトネ>様」 黒い影はそう言われて驚きの色を滲ませたが、最後には優しく微笑んでその心に応えた。 「…ありがとうな、呼朝」 その言葉に対して呼朝はなにも言わずに、そっぽを向いて決まり悪そうに頭を掻いただけだった。
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