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真珠色の鍵で鉄格子の小扉が開かれる。
男を直視しないようにし、牢内へと膳を差し入れる。
女の一連動作は無言で進められていた。
女は廊下の奥に下がり、静かに監視していた。
警戒されないように、男は床の食事に拘束された両手を伸ばす。
膳からパンを掴み取り、拘束された両手で器用に引きちぎる。
乾いたパンをさらに細かくちぎり、口へと運ぶ。
女はただ壁に寄りかかり、男の食事を眺めていた。
「・・・何か気になるか?」
「・・・・・。」
数時間ぶりに見た女神に、男はなぜか話をかけた。
「・・・・フッ、大罪人とは話をしたくないか。」
言葉が自分への呼びかけだと女は気づいた。
気品のある顔に、苛立ちの表情が浮かぶ。
「あなたは、自分が何をやったかを自覚しているの?」
固いパンを口に含み苦いコーヒーで流し込みながら、男が返答する。
「さぁな。あの時に俺は顕現、生まれたからな。知るよしもない。」
「そう」
護符だらけの鉄格子を挟んで、女と男は沈黙する。
パンとコーヒーの質素な食事が終わった。
男は皿とコップを膳をそろえ、小扉の前に置く。
「それでお腹は満たされるの気はしないわね。」
女が感想を漏らした。
男はそれ以上返答する気はあまりなかったが、何となく答えた。
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