デメトリアーデは死んだが

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 後ろ手に縛られた男達は四人になった。後ろで見張る男は何もなかったように、早く歩けと銃を心持ちあげてみせる。四人は今しがたできた死体に目を向けたが、死体のほうは男の足によって無造作にうつぶせにされた。うつぶせにされたことで見えなくなったみたいに四人はまた前を向いた。それでいい。男は子供のように、子供の成長を見守る父親のように、前を歩く四人の背中に笑いを向けた。 「デメトリアーデは死んだが」男は言った。「五人の男がそれを見ていた」深みのある男の声だが、彼はたしかにさっき引き金を引いたのだった。 「ある詩人の詩だ。今死んだのはデメトリアーデではない。しかし今の状況はその詩に酷似している。だから、より、わたしはそれに近づけてやったのだ。彼がせめてじっさいに死んだのではないように。空想の、言葉の中の死を死んだと錯覚してもらうように」  四人は男の言葉を、言葉のいっさいを無視した。反応のしようもなかったから当然だった。男は物足りなさそうに、子供が悪戯をしたのに誰も気づかないときの残念な顔になって、四つ背中を見ていた。 *石原吉郎の「デメトリアーデは死んだが」を引用・着想もそこから
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