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音楽室の空気はどことなくよそよそしく、わたしはドス江のようにうまく気持ちを高められなかった。
ドス江はまっさきに部屋のすみ、縛られたカーテンのある窓ぎわのピアノのもとへおもむいた。離れて見たわたしにも立派なピアノだとわかった。ピアノのふたをあけて、ドス江はピアノの前の椅子に腰かけたようだった。ふたの陰に姿が隠れる。
高い感じの音が鳴った。
「もう、ドス江。誰か来たらわたしまで怒られるじゃん」
わたしは少しびっくりもしていたのだ。無音に近い空気に、いきなり人工の音がひびいたら誰だってびっくりすると思う。
「ごめんごめん。つい」
立ち上がり、ドス江の顔が見えるとわたしはわけもなく、安心した。声は届くのだから、そもそも怖がるひつようはない、しかしピアノの向こうは、やっぱり怖い。
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