おもちゃのピアノ

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 わたしは不意に、飽きて壁によりかかる。すぐそばの壁には棚が接しておいてあった。見るとはなしに見るとその中にキーボードらしき小ぶりの鍵盤がつっこまれているのがわかる。わたしは屈んで、それを引っ張り出した。ドス江が近くまできて、わたしの背後に立つ。 「それ、なに?」ドス江も鍵盤に興味あるらしかった。 「うーん、たぶんおもちゃのピアノみたい。弾けないよ」わたしはそういって、実際にその鍵盤に触れてもキーが沈まないのを見せたが、ドス江は「弾けない」と聞いただけでたぶん気が逸れていた。「なーんだ」といって、わたしのほうから目を違うほうへと向ける。  ドス江が飽きてきたように、わたしも飽きていた。もういいだろう。よそよそしい寄り道はこれぐらいにして早く家に帰りたい。  わたしはドス江のほうを振り返った。「そろそろ帰ろうよ」といおうとしたのだ。だが、その言葉を口に出す前に、部屋の明かりがいっせいに消えて、まっ暗になった。
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