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「な、なに」というドス江のうろたえた声が聞こえる。
「ドス江?」とわたしも手探り状態で声を出す。ドス江の姿どころか、何一つ見えない。
「なとり? 電気消したの?」とドス江。
「ううん、わたしはここにいるよ(どこも行かずに待ってるよ、とこれは心の中でだけ唱える)。……停電かな」
わたしはドス江がさっきまで調子に乗っていたのを見て、何か彼女を怖がらせるようなささいなことがあればいいと思っていたのを思いだす。そうすれば彼女も少しは懲りるだろうと。しかし、こういうのは困る。わたしは壁がわにいるからまだあれだけど、ドス江は部屋の中心あたりにいた覚えがあるから、怖いだろうなとも思う。廊下も、向こうの窓の外も暗くて何も見えない。
わたしはひとまず立ち上がろうとする。と、
ターーーン。
ピアノの音がして、わたしは慌てて手に触っていたおもちゃのピアノを放す。しかし、一呼吸の後、このピアノはあくまでおもちゃのピアノで、音は鳴らないのだということを思いだす。向こうのピアノが鳴ったんだろうか……しかしそれもおかしいことに気づく。
「なとり? いまのなに?」とドス江は素で怖がっていた。
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