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やや狭い部屋に男が一人。いれたばかりのコーヒーに息を吹きかけている。と同時に、どこかに行こうとしているようで、コートを探している。だが、コートは見つからない。
男は窓から外をのぞく。その暗闇から受けるのは寒々しい印象のみである。男はいったん落ち着こうとばかりに椅子を引く、途端に電話が鳴る。男は腰を浮かせ、受話器をとる。
「ハロー?」
「ハロー。急ですまんが仕事が長引いて飲みにも行けなくなった」
「そうか。いや、いいんだ。一人で飲みたかったところさ」
「すまんな。じゃあ切るぞ」
「ああ」と言う、男は相手が電話の向こうで電話を切るのを聞き届けると、ゆっくりと受話器を置く。男はまわりを見まわす。部屋に物音はない。テーブルに指を置いて、男はリズムをとる。そしてやめる。新聞に手を伸ばしかけ、手を戻す。
男は立ち上がると、コーヒーを持ったまま玄関のドアにいき、外には出ずにただ内側から鍵を閉めると、狭い部屋の端の暗がりにある階段をのぼっていく。
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