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その当時の私は、近くのスーパーの小さなパン屋でパートとして働いていたけど、暇を持て余してバイトを探していた。
そんな時…
あの日は、雨が降っていたと思う。
何気なく、そのお店の前を通りかかったのがそもそものきっかけだった。
その磨り硝子の引き戸に貼ってあったチラシには
“従業員募集中
不思議ちゃん 可愛い女の子募集!!”
とあった。
正直、『不思議ちゃん』というフレーズが気になってしまった。どんな人がこのチラシを書いているのか?ということも。
これから雇うのに不思議ちゃんで本当に大丈夫なのかと不安に思いながらどんなお店なのか気になった。
すぐに面接に行って簡単なやりとりをした後、採用になり、その日の夜から仕事に入ることになったが正直、“接客”という類の仕事はあまり得意ではなかったために採用になったことに驚いた。
本音を言えば、採用になってしまったが本当のところだ。
その日の夜から間接照明の仄暗い店内のカウンターに立ち、座敷とカウンターを行き来しながらしばらくはひたすら自己紹介をした。
人付き合いが苦手で自分に自信が持てない私には自己紹介すらとても戸惑う行為だった。そんな私が慣れないながら、周りに助けてもらいながらもなんとか仕事を続けていく中で“その人”を見つけてしまった…
カウンターの一番端に座って、マルボロのメンソールを吸うその人を。
元々、明るいという訳ではないと思うのだけれど、coolなようでさり気なく助けてくれていつも優しい真摯なお客様。
慣れないビールを飲みながらその場を盛り上げているムードメーカーでもある。
男性に恐怖や警戒心を感じてしまう私でも彼の優しさのおかげで戸惑いながらもノリに合わせて話すことができた。
その彼こそが鳴海 簾慈(Narumi Renji)その人だったのだ。
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