8人が本棚に入れています
本棚に追加
加えての悪天候。シャツが雨を吸って地味に重たいし、雨が目に入ったりすればそれはもう最悪。
「恨まないでねぇ~」
「クッ。……恨まれたくないんなら、その槍を下げてくれないか?」
「無理だねぇ~。だって見られちゃったし」
そりゃそうだろうな。あまり現状を理解は出来てないが、殺人(未遂)現場を見られちゃ、目撃者も排除する以外はないもんなぁ。
俺が逆の立場でもそうするだろう。……だから、精一杯抵抗させてもらうんだけどよ。
一撃だ、一撃だけ避けて逃げる。この危険な女性から逃げだし、後ろの少女を抱えて病院に行ければ俺の勝ち。
なんて考えてるが……言うは易し、行うは難しってヤツだ。
小さく構える。祖父や父親から教えられ、叩き込まれた古流武術の型。
「行っくよぉ~」
やはり気と間の抜けた声を出して、丁寧にも俺に攻撃宣言。
ぐぐぐと、弦一杯まで引き絞られた弓のように、身体──主に足、腕、腰に力を溜める女性。
その身に籠められた力は、今か今かと叫ぶように言を上げている。
「そ~れぇ~」
地を駆け出し、必殺と呼べる槍の突きを俺に繰り出そうと動く。
──農民、三間半の槍持ちゃ武士をも殺す。
不意に、そんな言葉を思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!