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「………千陽」
彼があたしの名前をいつもの甘い声で呟くと、視界を奪われて、辺りは真っ暗になる。
それはいつもの事だけど、いちいち戸惑ってしまうあたし。
そして、毎回、不安になってしまう。
だけどそんな不安すら、毎回、簡単に吹き飛ばしてくれる彼の行為。
視界を遮断されて不安になっているあたしの身体に次に襲ってくるのは、彼の温もりと甘く切なくあたしを酔わせる香水の匂い。
「……千陽」
愛しそうに呼ぶ彼。
あたしたちの恋愛はほんの一時。
いや、これは恋愛なんて言えないくらいちっぽけで。
いつしか簡単に壊れてしまいそうなくらい儚い。
それでもあたしたちは寄り添う。
どちらが拒否するわけでもなく、全てを受け入れるわけでもなく。
ただただ、この時間を心地よいと感じて。
いつしか壊れてしまうことを恐れて。
今日も一時のこの時間を、過ごしいる。
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