桜の男。

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校庭に桜が咲き誇るような日、あたしは先輩になった。 あたしの目の前を、真新しい制服を着た新入生が入学式の行われる体育館へと、堂々と歩いていく。 「ふふ、可愛い…」 新入生を見ていると、つい本音をこぼしてしまう。 あたしも一年前、漆川学園に入学した時はこんな感じだったのかなー。 なんて、考えてみると少し恥ずかしくなった。 「ちぃー!見つけたー!!」 あたしの耳に響くような声が聞こえてきた。 振り返った先には、色素の薄い茶髪のショートカットが印象的な体育会系の少女があたしのもとに走ってくるのが見える。 彼女は葛西 琉生(カサイ ルイ)。 同じ陸上部仲間。 そして、あたしは柳 千陽(ヤナギ チハル)。 「もー千陽ー!どこ行ってんのよ!」 そう頬を膨らませて怒る琉生は、なんとも可愛らしい。 ついつい、笑ってしまう。 そんなあたしにまた彼女は怒る。 「千陽ー!!何、笑ってんのよ!!」 「ふふ、あまりにも琉生が可愛くて、ついね」 そういうと、見る見るうちに顔が茹で蛸のようになっていく。 彼女は見た目によらず、凄く純粋で、言われた事をすぐに真に受けてしまうような繊細な子。 すぐに騙されてしまうところが、短所だったりするのだけれど。 そんなところも可愛い。 「千陽!もう知らない!先、行くからね!千陽も早くおいでよ!新入生を勧誘しないといけないんだからね!」 それだけ言うと顔が真っ赤な琉生は、来た道を戻っていった。 そう思ったんだけど、琉生は振り返って。 「蓮(レン)くんがすっごく拗ねてたよ、早く戻ってあげた方がいいんじゃない?」 琉生は少し微笑んで、戻っていった。 琉生が言う蓮くんは付き合ってもう2年になるあたしの彼氏。 中学生のとき、今日みたいな桜が満開な入学式の日に蓮が告ってくれたことがあたしたちの始まり。 二年経っても、大好きな大好きな彼氏だ。 さて、あたしも行かなくちゃ。 大きな桜の木を少し眺めにきただけだから。 あたしは再度、大きな桜の木を見上げた。
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