隣の外国人

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まだ残暑が残る9月の中盤。 私はドン詰まりの生活から抜け出すために京都に2泊3日の観光に来ていた。 文字を見続けているせいかこういう風景がとても恋しくなる。 情緒あふれる通りやきれいな舞妓さん、すべてが私を癒してくれていた。 旅館に帰るとおかみさんが満面の笑みで迎えてくれる。あんなぼろアパートとは大違いだ。 アパートに帰ると競馬が生きがいの大家がしかめっ面で迎えてくれる。 まあそれもそれでいいのだが・・・ 部屋は和風な感じの中にうまく洋風のつくりが施してあり畳もきれいだし外にはきれいな山々が私の目の前に競わんばかりに並んでいる。 さっそく私は鞄から1冊の本を取り出した。 「緋色の研究」 私はこのタイトルを見るといつも気づかぬうちに笑っている。 私はワトソンを尊敬している。ホームズもいいのだが助手役としては完璧なのがワトソン。 いつもホームズについていざとあらば自分の身も捧げている。 これは私の見解だから人にはそれぞれあるだろう。だが私はワトソンを尊敬する。 ある程度読み進めていくとドアをノックする音が聞こえた。 私はすこしめんどくさかったがドアまで歩いて行った。 「月本様、お食事の用意ができましたのでお持ちしました」 私はちらりと腕時計をみるともう7時であった。旅館に着いてから2時間はたっている。 私はドアを開けた。あけると同時によどんだ空気がたまっていた部屋中においしいにおいがなだれ込んだ。 「月本様、」 女将が食事の配膳が終わると話しかけてきた。 「実は頼みたいことがありまして」 私はいきなりだったので少し驚いた。 その表情を読み取ったのか女将は付け足した。 「無理やったらいいですけど」 私はいちよう聞くことにした。 「隣の部屋のお客様が外国人でぜひ京都を案内していただきたいとおっしゃるのですが私どもは仕事がありますのでねその・・・」 「私の観光ついでにと、」 「はい、」 申し訳なさそうに女将は言った。 「それに月本様はお一人のようですし」 私は少し癪に障ったが1人より2人の方が楽しいということで引き受けた。
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