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忙しなく響く蝉の鳴き声に顔をしかめながら、俺は高校の通学路である駅裏の並木道をふらふらと一人歩いていた。
いつもならこの先にある顔馴染みのコンビニに寄って、店長ととりとめのない会話を二三しつつ、アンパンと牛乳、ついでに大好きな格闘技の雑誌の一つでも買っていく。
朝食をすませつつ、ポケットに入れたiPodでお気に入りのBGMを聴きながら登校する。
そう、これが俺のいつもの朝、のはずだったのだが、残念ながらこの日だけは違った。
いや、正確には親父と喧嘩をした次の日の朝は決まってこんな感じなのだが、昨日の喧嘩はいつもとは若干様子が違っていた。
『倉太刀家の跡継ぎは従兄弟の敬二郎にまかせる、大和、お前にはもう何も期待していない、好きにしろ』
昨夜、親父が俺に言った言葉だ。
「好きにしろ……か」
そう呟くと、俺は手近なベンチにどかりと腰を降ろした。
照りつける太陽、地面のアスファルトに反射した光が、公園のベンチで、うなだれながら座る俺に容赦なく突き刺さる。
「暑っ……」
ぼやくように言って、俺は更に頭を垂れた。
半袖のシャツが背中の汗で貼りついて気色が悪い。
ハアッ……と短く溜め息をつきながら目を瞑ると、倉太刀家という四文字の言葉が、頭の中でグルグルと螺旋階段のように渦巻き始めた。
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